高橋大輔選手・「生ドラマ」
2013年12月22日夜、高橋大輔選手のフリー演技が終わった。その瞬間、1万8,000人もの大観衆が総立ちで、高橋選手を讃えた。
鳴りやまない拍手を浴びながら、高橋選手は、四方に向かい、深々と頭を下げた。
テレビカメラに映る高橋選手の顔は、かすかな笑みが浮び、涙している。そして、カメラが映し出す右手からは赤い血が滴り落ちている。
かすかな笑みは、決して逃げずに死力を尽くしたという高橋選手の誇りがそうさせている。それ以上に鮮烈に映る涙は、右足膝の怪我のために、自分の演技ができなかった悔しさの現われである。
演技が終わってから、高橋選手に対するテレビのインタビューが始まった。彼の姿を観るのが辛い。
目を真っ赤に腫らして言葉を絞り出した。
「いや…、全く…、自分の演技が…」と言いかけて、嗚咽が止まらない。
しゃべれないのだ。たまらず、カメラの前を離れ、奥に引っ込んだ。時が流れる。
再び姿を見せると、彼は、涙ながらに、声をふりしぼった。
「自分の演技ができなかった。それが一番悔しい。ミスを重ねていくごとに、これで終わったのかなという気持ちが強くなった」
「これで終わったのかなという気持ちが強くなった」の言葉が聴く者の胸を打つ。
高橋選手は、右足膝の怪我には全く触れない。
驚くことに、演技をしながら、自分を冷静に見つめている高橋選手がいる。最高レベルのアスリートだけが持つ底力だ。
「自分自身への情けない気持ちと応援してくれた皆さんにパワーを返せなかったことが悔しい」
高橋選手は、自分のことで悔しくて悔しくてたまらない。その気持を自分にだけ集中していいのに、応援してくれた日本中の国民に応えれないことが悔しいと言うのだ。
「でも、これが自分の実力。受け止めたい。僕のスケート人生で一番苦しかった全日本でした。その厳しい壁を乗り越えられなかった自分自身に対して、もっとできるはずの自分がいるという気持ちもあるんですが。それができなかったことが悔しいんです」
この発言には、決して逃げないで向かっていく高橋選手の真骨頂がよく現れている。「もっとできるはずの自分」と「厳しい壁を乗り越えられなかった自分」。ギリギリの真情の吐露だ。人間、高橋大輔の姿がそこにある。
熱情と寂しさ。テレビ越しに観る者にもハッキリ伝わってくる。高橋大輔選手が涙するのと共に、日本中の観戦者がもらい泣きだ。
インタビューの中で、「これで最後の演技になるかもしれないと思ったら、ありがとうございますという気持ちだった」と語っている部分がある。これは、スタンディングオベーションに対して彼がかすかに浮べた笑みについて言っているものだろう。
2013年12月21日から23日までの3日間におけるフィギュアスケートドラマ。それは、主演・高橋大輔とフィギュアスケートを応援する日本中の国民とをめぐる愛と感動のドラマである。
ドキドキハラハラの3日間。最高の人生ドラマだ。
それは、日本のスポーツ史上、高橋大輔の名と共に、永遠に残る。
2013年12月23日夜、会場のさいたまスーパーアリーナで、ソチ五輪の男子代表選手名が発表されていく。
羽生結弦選手、町田樹選手の順にコールされ、その都度、沸き起こる歓声。
最後の三人目の発表。大観衆が固唾を呑む。
「高橋大輔!!」 その瞬間、会場全体がどよめいた。
1万8,000人の大観衆のどよめき。永遠に忘れられない。
時あたかも、クリスマスイブ前日。「よかったね、高橋大輔選手!!メリークリスマス!!」。
津軽のシニアブロガーは、もちろん、この3日間の人生ドラマはテレビで観た。テレビ画面越しではあるが、高橋大輔選手の頑張り、悔しさ、熱情、寂しさ、落胆など、すぐそこにいるかのように伝わってくる。
会場のさいたまスーパーアリーナでのどよめき。驚くほどに伝わってくる。
私は、2013年12月21日から23日までの3日間におけるフィギュアスケートドラマを記録するため、ブログ記事に書いた。それに高橋大輔選手・「最高の人生ドラマ」とのタイトルを付し、5月9日付けで投稿した。
これに対し、メイさんがコメントを寄せて下さった。私がテレビ画面越しに観たものとは別の生ドラマを垣間見ることができる。
メイさん曰く。
ありがとうございます。拝読しながら、あの全日本の会場にいた時のことを思い出して涙しました。
テレビ放送ではよく伝わらないと思いますが、男子ショート・フリーともに、会場では、高橋選手が登場すると、天井席と呼ばれる端の端の席まで高橋選手の紅白カラーの応援バナーで埋め尽くされ、老若男女みんなが叫びのような声を上げ高橋選手を応援していました。
代表発表の日は、男子の試合もないのに客席は同様の雰囲気で、高橋選手の名前が発表された時のあの会場を揺るがすような大歓声は、思い出すと今でも胸が震えます。
全日本、そして五輪の演技は、彼のコーチが仰るには高橋選手の実力の2割も出せていない演技だったにもかかわらず、私は録画等を何度観てもそのたびに泣いてしまいます。
それは、高橋選手の演技が、全体の完成度がとても高く全ての動作・表情に心がこもっていて、たとえジャンプなしでも一つの作品として完成されているからであると同時に、wasao1010さまの仰る通り、高橋選手の決して言い訳しない・どんな困難からも逃げない強靭で美しい精神がその演技に反映されているからだと思います。
そして、高橋選手の演技はどれもドラマティックで人の感情を深い所から揺さぶるものが多いのですが、それは、彼の人生や歩みが同様にとてもドラマに溢れたものだからかもしれませんね。
メイさんのコメントは、高橋大輔選手のフィギュアスケートに関する最高のスポーツ評論、人生評論である。津軽のシニアブロガーにはとても書けない。シャッポを脱ぐとは、このことである。
シャッポを脱いでも、私は笑われることはない。なぜかなれば、私には有り余るほどに髪はあるからである。
スポーツ観戦は、生で観るにしくはない。やはり、臨場感に勝るものはない。
いつも、高橋大輔選手の生ドラマを間近でご覧になっているメイさんほど幸せ者はいない。と、津軽のシニアブロガーは、脱帽しつつ、賛辞を送らせていただく。
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